言葉は別離

言葉は別離
それぞれのベッドの上には、古い顔があり、新しい顔があった。若者も年寄りもいた。歳に関係なく、人はとつぜん死んだり元気になったりした。
上下関係もなく利害関係もない。同病相憐れむではないが同じ境遇だから、誰とでもすぐに親しくなれた。眠れない夜更けに病室の白い壁をコツコツとノックする。するとすぐにコツコツと返事がかえってきた抑鬱症
そこだけに自然さがあり、自然に親しくなれたが、別れも自然にやってくる。
親しかった人が退院する日も、まだ寒い春だった。カレンダーを見つめていて、啓蟄という漢字をはじめて知った。節分や春分の日は知っていたが、啓蟄の意味はまわりの誰も知らなかった。

暦のことなど関心がないほど、まわりのみんなは若かったのだろうか。
それに、季節がどのように変わっていこうが、レントゲンの黒い影が無くならないかぎり、新しい季節は始まらないのだった。
啓蟄だろうが節分だろうが、暦のことはどうでもよかった。だいじなことは、それまで親しかった人が、その日をかぎりに元いた外の世界に出ていくということだった。新しい季節の中に出ていくということだった。カレンダーに記されているのは、そのことだった貸款服務
啓蟄という言葉は別離という言葉の代名詞として、ぼくの記憶に残った。
ずっと後になってその言葉の意味を知ったとき、白い壁をコツコツとノックしていたのは、虫の仲間だったのだと思った。

飛び立とうとする虫は美しかった。
小さなテントウムシが、ぼくの手のひらの上で羽を広げようとしていた。
虫はいくどもいくども飛びたつ試みをしたのち、やっYumei好用と思いたったように手のひらを離れていった。そうやって新しい季節が始まるのを、ぼくは知った。
いまでも地中では、虫たちが白い壁をノックしているにちがいない。


同じカテゴリー(はねのは)の記事
偽装はないわけ
偽装はないわけ(2014-06-24 16:06)

ばいいのだと思う
ばいいのだと思う(2014-06-24 16:00)

冷蔵庫でした
冷蔵庫でした(2014-04-25 11:59)

あわてて蓋を閉じる
あわてて蓋を閉じる(2014-03-22 12:59)

私の幼かった頃
私の幼かった頃(2014-02-06 14:47)

宇宙を浮遊
宇宙を浮遊(2014-02-06 14:46)


2014年05月27日 Posted bylaoeodre at 11:59 │Comments(0)はねのは

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。